大判例

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徳島地方裁判所 昭和25年(行)31号 判決

原告 原口与市

被告 川島税務署長

一、主  文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は「被告が原告に対し昭和二十四年度の所得額十万八千九十円所得税額二万六百五十円となした更正決定はこれを取り消す、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、「原告は肩書地で絹織物の賃織加工を業としているものであるが、昭和二十四年一月以降同年十二月までの所得は右営業によつて得た収入金七万一千三百円、他に田畑二反三畝歩による農業所得金一万六千円を合せて計八万七千三百円であるところ、右営業に使用した必要経費は組合費八千六百五十八円、織機等の修繕費三万二千円、工員の給料三万二千円、事業税二万円以上を合計してもすでに九万二千六百五十八円となり差引二万一千余円の欠損を生じたので昭和二十五年一月被告にこの旨申告した。然るに被告は原告の右確定申告に対し所得額十万八千九十円、これに対する所得税額二万六百五十円と更正決定の通知があり、原告は適法期間内に高松国税局長宛審査請求書を提出したところ、昭和二十五年六月頃被告官署の係官が来宅したが原告の主張を聴き容れず、被告の決定通り強調するのみであり、他方高松国税局長は審査請求を提出して以来三月を経過しても何ら決定するところがないので、原告は昭和二十五年七月二十七日当庁に対し被告の為した更正決定の取消訴訟を提起したところ、被告は係官脇田事務官をして訴訟取下方を促さしめ、その後昭和二十五年八月末頃被告官署直税課長某、原告居村々長松岡量太郎、訴外森田常一等が来宅し、円満解決を要望したが、原告はすでに訴提起後であり、課税の不当な訳を述べて、裁判によりこれの是正を求める旨強調したが、前記三名が納得の行くように解決するとのことであつたから原告は被告係官持参の訴訟取下書に捺印した。然るにその後被告より具体的解決方法につき何らの提言もなく、突然本来の更正決定通りの納税督促と、これを納付しないときは滞納処分に付するという通知に接し、原告は被告官署に出頭し右の事情を述べて善処方促したところ、本年度は致し方ないが、来年度は考慮するとのことであつたので、初めて被告係官や村長等の言に欺されたことを知り、再度の本訴により本案の審理を受ける次第である。」と述べ、乙第一号証を根拠とする被告の抗弁に対して「原告が被告に対し昭和二十五年九月四日異議申立を取下する旨の意思表示を為したことはこれを認めるが、右は前記事情により被告官署直税課長、村長松岡量太郎、訴外森田常一等が原告の居宅に臨み、訴訟取下と引換に本更正決定を取消する旨の約束の下に交換条件的に異議申立を取下したものであるが、その後被告が右約束を履行しないことが分つたので、行政事件訴訟特例法第五条の六月の出訴期間内に本訴に及んだものであつて同法第二条所定の審査請求を為したところ右のようないきさつよりこれを取下する意思表示を為したのは被告の脅迫又は欺罔行為に基くものであり、且又法律行為の要素に錯誤があり本訴は同法第二条訴願前置主義に照らしても適法であることを確信する。」と述べた。(立証省略)

被告代理人は訴却下の判決を求め本案前の抗弁として、「原告は昭和二十四年三月九日被告宛異議申立書(乙第一号証)と題する書面を提出していて、一応右が審査請求に該当するとしても原告は昭和二十五年九月四日原告宅で被告官署直税課長から家事に関連した諸経費等は全て必要経費に算入されない旨詳細説明した結果納得の上前記書面の末尾に自書署名捺印して該書面取下の意思表示をしたものであつて、本訴は行政事件訴訟特例法第二条所定の審査手続を経ていない。不適法の訴である」と述べ原告の再抗弁事実を否認し、本案につき請求棄却の判決を求め、答弁として「原告請求原因事実中原告が肩書住所で絹織物の賃織加工を業としていること、被告が原告の昭和二十四年度所得税確定申告に対し昭和二十五年二月二十日更正決定を為したこと(原告は更正所得額が十万八千九十円と主張するが十万八千円である。)、被告が原告より昭和二十五年三月八日附被告宛異議申立書と題する書面を受領したこと、原告が昭和二十五年七月二十七日当庁に対し被告の為した更正決定の取消訴訟を提起したこと、被告官署直税課長、原告居村々長松岡量太郎、訴外森田常一等が昭和二十五年九月四日(原告が八月末日と称するのは誤りである。)原告宅を訪れ本訴課税問題につき交渉した結果、原告が即時異議申立書を取下したことはいづれもこれを認めるが、その余の事実を否認する。被告は原告の異議申立に接し昭和二十五年六月頃係官をして調査せしめた結果同年七月十五日前記決定額の一部取消を為し所得額金九万八千四百円と変更したから、現在決定額は右金額の通りである。」と述べた。(立証省略)

三、理  由

原告の昭和二十四年度所得税確定申告に対し被告が昭和二十五年二月二十日所得額更正決定を為し(その額につき原告は十万八千九十円、被告は十万八千円と各主張する。)、原告が被告宛昭和二十五年三月八日附異議申立書と題する書面を提出し、更に同年七月二十七日当庁に対し被告の為した更正決定の取消訴訟を提起したこと、被告官署直税課長井上忠、原告居村々長松岡量太郎、訴外森田常一等が同年九月四日原告宅を訪れ、本訴課税問題につき交渉した結果原告が即時右異議申立書及び訴訟を取下する旨の意思表示を為したことはいづれも双方争ない、成立に争ない乙第一号証に証人松岡量太郎、井上忠、原口公幸、森田常一の各証言を綜合すれば、原告は昭和二十五年九月四日前記のように被告官署直税課長井上忠等と自宅で面接し、課税処分の不当でないことを説得された結果自発的に異議申立を取下げ、併せて訴訟をも取下げた事実を認定するに足り、原告主張の詐欺、脅迫、錯誤等の点はこれを認定するに足る資料がない。従つて本訴は行政事件訴訟特例法第二条所定の審査手続を経由してない不適法の訴であり、原告の全主張立証によつても同条但書に該当する事由も存しない。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 今谷健一 合田得太郎 三木光一)

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